能登半島地震の発生から3カ月が過ぎた。被災地ではいまだインフラが正常に戻らず、避難生活を送る人も多い。家族を失い、日常の生活が奪われた人たちの喪失感はなかなか癒えないだろう。その大前提に立った上で、国会の動きを見ていると、「一つの善行、必ずしも全体の善行ならず」との思いを抱く。
政府は住宅が全壊した世帯に最大300万円を支給する被災者生活再建支援法を適用した。さらに新たな交付金制度を創設し、石川県の6市町の高齢者世帯などに最大300万円上乗せする。立憲民主、日本維新の会、国民民主の野党3党は1月に支援法の支給を最大600万円に増やす改正案を国会に提出していた。こうした流れをくんだ「手厚い対応」なのだろう。
しかし、少し想像を働かせてほしい。南海トラフ地震と首都直下地震は、予測に幅があるとはいえ、いずれ確実に起こる。政府の被害想定では、建物全壊(住宅だけではない)は前者が最悪で238万6千棟、後者は61万棟に上る。
全国知事会の資料によると、東日本大震災での支給は約20万7千棟に3816億円だった(大規模半壊なども含む)。両地震の被害はこれをはるかに上回り、住宅再建支援だけでそれぞれ兆単位の支給になるだろう。被害は住宅だけではない。南海トラフの全体の被害想定は最悪で約220兆円、首都直下は約95兆円で、住宅再建支援にはなかなか手が届きそうもない。
能登半島地震の被害の全容はいまだ不明だが、住宅損壊は7万5千棟を超える。れいわ新選組の山本太郎代表は1月29日の参院予算委員会で、岸田文雄首相に対し「家の修繕は金額の上限を決めるのではなく、かかる額の多くを国が持つ約束を」と訴えた。
だが、政府・自治体の支援で能登半島地震で損壊した全住宅の再建が可能だとしても、南海トラフ、首都直下両地震で同様のことは実現しえない。
地震対応の在り方をめぐっては「手厚いほどよいかもしれないが、国民の税金である以上、しっかりと議論すべきだ」(千葉県の熊谷俊人知事)と疑問の声も出ている。
今後の教訓として打つ手はある。住宅の耐震化をより進めることだ。
平成30年時点の全国の住宅の耐震化は約87%だった。これに比し、今回被害が大きかった石川県の珠洲市は約51%(30年度末)、輪島市は約45%(令和元年)だった。警察が今回の地震で検視した死者222人の死因の最多は倒壊した建物の下敷きなどによる圧死の92人で、死因の約40%を占めた。住宅の耐震化が進んでいれば、確実に犠牲者の数は減っていた。
耐震補強の原則は「住宅が損壊しても命だけは助かる」だ。工務店などで構成する日本木造住宅耐震補強事業者協同組合によれば、戸建ての平均施工額は167万7421円という。耐震補強には診断も含め国や自治体が補助をしているので、実際の負担はさらに低くなる。
同程度の予算を使うならば、事後よりも事前に費やした方が効果的であり、何よりも救える命が確実に増える。「裏金問題」の議論も結構だが、政府や国会議員が優先的に取り組むべきは、国民の命を守るために実効性のある防災・減災対策をとることではないか。(政治部長兼論説委員)
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