北方領土問題を含む日本とロシアの平和条約締結交渉が、ロシア側の一方的な停止表明で暗礁に乗り上げた。日本側はこれまで、「4島返還」から「2島返還」に要求のハードルを下げ、経済協力をてこに交渉の進展を目指してきたが、誤算が続き、成果を上げられないまま、水泡に帰すことになる。プーチン大統領との信頼関係を基に、平和条約締結を目指した安倍晋三元首相は沈黙している。
岸田文雄首相は22日の参院予算委員会で、交渉停止通告について「断じて受け入れられない」と強く反発。ロシア外務省が声明で、ウクライナ侵攻を受けた制裁に踏み切った日本政府の責任だと指摘したことには「今回の事態は全てロシアのウクライナ侵略に起因している。日ロ関係に転嫁しようとする対応は極めて不当」と非難した。
日ロ関係を巡って、日本は2014年、ロシアのクリミア半島併合時、対ロ制裁で実効性の乏しい制裁にとどめた。安倍氏は16年、プーチン氏に8項目の経済協力プランを提示。国際社会からの制裁が続くロシアに利益をもたらす提案なら、交渉の環境整備につながるとの思惑からだ。
18年には、戦後長く堅持していた4島全面返還の方針を転換。平和条約締結後に歯舞群島と色丹島を引き渡すとした1956年の日ソ共同宣言を基礎に交渉を加速していくことを決めた。
だが、ロシア側は北方領土への米軍駐留を禁じるよう求めるなど、安全保障上の懸念を繰り返し主張。2020年には領土割譲を禁じる憲法改正を行った。経済協力と領土交渉の同時進行を狙った日本側のシナリオは既に崩れかけており、今回のウクライナ侵攻がとどめを刺した。
首相在任中にプーチン氏と27回の会談を重ね、現在の日ロ交渉の土台を築いた安倍氏は22日、「時間が取れない」として、記者団の取材要請に応じなかった。(川田篤志)
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