東京電力福島第一原発事故を巡り、旧経営陣4人に13兆円の賠償を命じた13日の東京地裁判決は、原発で万が一事故が起きれば甚大な被害を及ぼすことを踏まえ、原子力事業を担う企業の取締役の責任を重く見たものだ。
◆津波を巡る判断、刑事裁判や集団訴訟と異なる
旧経営陣の責任を巡っては他に、勝俣恒久元会長ら3人を業務上過失致死傷罪で強制起訴した刑事裁判があり、一審は3人を無罪としている。判断を分けたポイントの一つは、巨大津波の到来を予見できたかどうかだった。
2002年に政府の地震調査研究推進本部が公表した地震予測「長期評価」について、刑事裁判は専門家の間で意見が分かれていたことなどから信頼性を否定したが、今回の判決は「公的な機関や会議体で、相当数の専門家によって取りまとめられた」と科学的信頼性を認定。自然現象に関する知見は「全員の意見が一致するとは限らない」とし、異論があるからと否定するのは不当だとした。
津波対策によって事故を防げたかどうかも異なる判断をした。原発避難者による集団訴訟の6月の最高裁判決は「実際の津波は長期評価に基づく想定よりはるかに規模が大きく、対策をしても防げなかった」と指摘した。原告側は「原子炉建屋の浸水防止策を講じていれば事故にはならなかった」と主張していたが、事故前は防潮堤設置が対策の主流で、浸水防止策の発想は一般的ではなかったとした。
◆「非常に高い注意義務求められた」こと示す
一方、今回の判決は、日本原子力発電が浸水対策を取っていたことなどを挙げ、経営陣から指示があれば担当部署は「浸水対策を発想することは十分に可能だった」とした。安全対策の実質責任者だった武藤栄元副社長が、敷地の高さを超える津波の試算について報告を受けながら対策を先送りしたことを「社内の専門部署の意見に反する独自の判断」と批判した。
勝俣氏ら最高責任者に対しても、速やかな対策を取ろうとしない武藤氏らの判断について「長期評価の信頼性が不明とする根拠は何か、なぜ何ら津波対策を講じないままなのかなどを確認すべき義務があった」と責任を厳しく捉えた。
元刑事裁判官の水野智幸弁護士は「原発事故の影響を考えれば、専門外かどうかは関係なく、非常に高い注意義務が求められることを示した判決だ」とみる。
刑事裁判は来年1月に控訴審の判決がある。刑事事件で被告の罪を問うには「合理的疑いを入れない程度の立証」が必要とされる。水野弁護士は「証拠の優劣で勝敗が決まる民事訴訟より一般的にハードルが高い」とした上で、「原発事故の因果関係の認定では民事、刑事に共通する点があり、刑事裁判の控訴審をはじめ他の訴訟にも影響を与えるのではないか」と話す。(小沢慧一)
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