判決で京都地方裁判所は、患者などから嘱託を受けて殺害に及んだ場合に、社会的相当性が認められ、嘱託殺人の罪に問うべきでない事案があり得るとして、最低限必要な要件を示しました。
【前提となる状況】
まず前提として、
▼病状による苦痛などの除去や緩和のためにほかに取るべき手段がなく、
かつ、
▼患者がみずからの置かれた状況を正しく認識した上で、みずからの命を絶つことを真摯(しんし)に希望するような場合としました。
【要件1 症状と他の手段】
そのうえで、医療従事者は、
▼医学的に行うべき治療や検査等を尽くし、ほかの医師らの意見なども求め患者の症状をそれまでの経過なども踏まえて診察し、死期が迫るなど現在の医学では改善不可能な症状があること、
▼それによる苦痛などの除去や緩和のためにほかに取るべき手段がないことなどを慎重に判断するとしました。
【要件2 意思の確認】
さらに
▼その診察や判断をもとに、患者に対して、患者の現在の症状や予後を含めた見込み、取り得る選択肢の有無などについて可能な限り説明を尽くし、それらの正しい認識に基づいた患者の意思を確認するほか、
▼患者の意思をよく知る近親者や関係者などの意見も参考に、患者の意思が真摯なものであるかその変更の可能性の有無を慎重に見極めることとしました。
【要件3 方法】
また、患者自身の依頼を受けて苦痛の少ない医学的に相当な方法を用いるとしました。
【要件4 過程の記録】
そして、事後検証が可能なように、これらの一連の過程を記録化することなど、あわせて4つの要件が最低限、必要だとしました。
これを踏まえて、今回の事件について判決では「被告は、林さんの主治医やALSの専門家ではなく、症状やカルテを確認しておらず、診察や面会すらしたことがなかった。これまでの経過なども踏まえた林さんの現在の症状や予後の見込みなどを正確に把握しないまま、主治医や家族などにも知らせることなく秘密裏に初めて会ったばかりの林さんをわずか15分程度のうちに殺害するに至り、経過についても検証可能なように記録化していない。被告の行為に社会的相当性は到底認められず、嘱託殺人罪の成立を妨げるものではない」と判断しました。
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