一見、静かな正月となった。
産経新聞東京本社は箱根駅伝のゴール地点にある。例年の1月3日は各大学応援団の太鼓の音や歓声が響き渡り、歩道は歩けないほどの人出で埋まる。今年は朝から警備員の姿ばかりが目立ち、まばらな沿道の人々も自粛要請に応じて拍手のみの応援にとどめた。
年末年始の帰省や行楽からのUターンラッシュもほぼみられず、東京駅などの主要ターミナルでも混雑はなかった。
◆リーダーシップを示せ
一方で暦とは関係なく、医療現場は新型コロナウイルスとの厳しい戦いを続けている。その悲鳴を聞き、緊急事態宣言を発令すべきではないか。発令の決断は、菅義偉首相のみができる。
大みそかの昨年12月31日には新規感染者が東京都で初の4桁となる1337人に上ったのをはじめ、神奈川、千葉、埼玉の各県でも全て過去最多を数えた。
30日に開かれた都のモニタリング会議では有識者が「通常医療との両立が困難になっており、このままでは破綻の危機に直面する」「より強い対策を実行する必要がある」と指摘した。
このため4都県の知事は2日、政府に新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言を4都県に対して発令するよう要請した。4知事と会談した西村康稔経済再生担当相は「緊急事態宣言が視野に入る厳しい状況だとの認識を共有した。(再発令の要請を)受け止めて検討していく」と述べるにとどまった。
菅首相は4日、年頭の記者会見を予定している。ここで政府の姿勢を明確にすべきである。緊急事態宣言は国民の協力なしに効力を発揮しない。協力を求めるには、首相の言葉が必要である。
菅首相は大みそか、記者団に緊急事態宣言を出す考えはあるかと問われ、「まず今の医療体制をしっかり確保し、感染拡大回避に全力を挙げることが大事だ」と述べた。発言に疑問があった。そのための宣言発令ではないのか。
感染状況については「大変厳しい認識をしている」と述べたが、その上で「感染対策の基本はマスク、手洗い、3密回避だ」と語った。これでは従来の認識と変わらぬ印象しか持たれない。
国民の多くはマスクを着用している。手を洗い消毒も心掛けている。3密の回避も理解している。それだけでは足りないという実感もある。危機に際して首相に求めたいのは、強いリーダーシップの可視化である。先頭に立つ姿を国民に見せる努力をしてほしい。
緊急事態宣言は安倍晋三政権だった昨年4月7日、東京都など7都府県に発令し、同月16日に対象を全国に広げた。一部に反対はあったが、広く国民の理解を得て、第1波の感染拡大を、どうにか抑制することができた。
その知見を生かしてほしい。何を止め、何を生かすのか。時短や休業を要請する飲食店などの補償をどうするのか。具体的に語ってほしい。大事なのはスピード感だ。検討に時間をかければ宣言の効力を弱めるだけだ。
◆特措法の改正を迅速に
急ぐべきは宣言の判断だけではない。まず一日も早いワクチン接種の開始だ。政府は米英の製薬大手ファイザー、アストラゼネカ、モデルナのワクチンの提供を受けることで基本合意している。ファイザーのワクチンについては厚生労働省に製造販売承認を申請済みで、認可待ちの状況だ。
ワクチンの幅広い接種はコロナ禍収束の切り札となり得る。有効性と安全性の評価には時間がかかるとされるが、今は緊急時だ。迅速な認可を推進してほしい。
もう一つは、特措法の改正である。緊急事態宣言は特措法を根拠とするが、法に強制力がないため宣言も要請しかできない。
政府は改正の必要を認めながら「新型コロナ禍の収束後に検証を経て」とする姿勢をなかなか崩さなかったが、ようやく今月召集の通常国会に改正案が提出される見通しだ。緊急事態宣言の効力を強めるため、罰則規定による強制力の付与が必要である。
今、目の前にある危機に対処できなくては、夏の東京五輪も開催が危ぶまれる。国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は1日、新年のあいさつに「(東京五輪は)トンネルの終わりの光になる」と記した。この期待に、応えたいではないか。
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